生活習慣病の医療費と受診状況|健保連 令和6年度調査と企業の予防対策

健康保険組合連合会(健保連)は2026年7月、「令和6年度 生活習慣関連疾患における受診状況及び医療費に関する調査」を公開しました。全国1,304の健康保険組合、加入者約2,557万人の電子レセプトを集計した調査で、働く世代の生活習慣病の受診実態を疾患別に把握できます。

外来では高血圧症の受診者が最も多く、入院では脳内出血が1入院あたり男性で約262万円と際立ちます。企業の健康管理に関わる数字を抜き出してまとめました。

調査の概要と集計定義の注意

調査は「医科入院外(外来)」と「医科入院」の2本立てです。対象は全健保組合1,378のうちデータを提供した1,304組合の令和6年度の電子レセプトで、紙レセプト・入院時食事・生活医療費・訪問看護は含まれません。加入者数は年度平均で総計2,557万人(男性1,341万人・女性1,215万人)です。

数字を引用する際には、外来と入院で集計方法が異なる点に注意が必要です。外来は1枚のレセプトに複数の疾病名がある場合に医療費を按分して集計する方式で、延べ数に近い性質を持ちます。入院は医療資源を最も投入した主傷病1つで計上する方式です。定義が異なるため、外来と入院の数値を単純に合算したり比較したりすることはできません。外来の受診者数は、主傷病1つで集計する公的疾病統計とも集計方法が異なるため、そのまま比べることはできません。

対象は、外来が糖尿病・脳血管障害・虚血性心疾患・高血圧症・高尿酸血症・高脂血症・肝機能障害の7疾患と人工透析の計8区分です。入院は糖尿病・虚血性心疾患・脳内出血・脳梗塞の4疾患を対象としています。

外来受診の中心は高血圧症・高脂血症・糖尿病

医科入院外の疾患別データは次のとおりです(受診者数は各月の受診者数を年度平均した推計値、伸び率は加入者1人あたり医療費の対前年度伸び率)。

疾患推計受診者数(年度平均)医療費総額加入者1人あたり医療費の伸び率
高血圧症150.4万人約952億円8.4%増
高脂血症137.2万人約609億円11.1%減
糖尿病101.1万人約1,490億円0.7%増
高尿酸血症40.0万人約80.5億円2.3%減
肝機能障害21.5万人約30億円29.0%増
虚血性心疾患19.9万人約105億円9.8%増
脳血管障害6.6万人約70.6億円1.1%増
人工透析1.4万人約626億円0.4%増

受診者数の最多は高血圧症の150.4万人ですが、医療費総額の最多は糖尿病の約1,490億円です。人工透析は推計受診者数1.4万人に対して医療費総額が約626億円と、1人あたりの医療費が突出して高くなっています。集計対象は糖尿病・高血圧性疾患・腎硬化症のいずれかの記録がある人工透析で、糖尿病の重症化は主要な流入経路のひとつです。

伸び率を見ると、受診率が横ばいから低下でも、1日あたり医療費の上昇で加入者1人あたり医療費が増える疾患が目立ちます。高脂血症の減少(11.1%減)は受診率の低下(11.2%減)が主因で、肝機能障害の増加(29.0%増)は1日あたり医療費の上昇(52.3%増)が主因でした。医療費の増加要因は受診の量ではなく単価に移っており、対策の力点は受診の抑制ではなく、重症化の予防と適正受診に置く整理になります。

なお前年度の実額は報告書に掲載されておらず、伸び率は同一の1,283組合を対象とした令和5年度比の値です。

糖尿病の外来受診者は50〜64歳が過半

年齢構造を見ると、糖尿病の外来受診者のうち50〜64歳が占める割合は、男性58.0%・女性54.7%です(報告書は構成割合を男女別に集計)。健保組合の加入者は現役の従業員と家族が中心のため、この統計に表れる生活習慣病の受診者は、その大半が働きながら通院している人です。受診率と加入者1人あたり医療費のピークはおおむね70〜74歳ですが、件数のボリュームは就労世代にあります。

男女差も明確です。高尿酸血症の受診率は、1,000人あたり男性26.64人に対して女性3.51人です。ほぼすべての疾患で、男性の受診率・加入者1人あたり医療費が女性を上回ります。職域の保健指導の対象者は男性が中心です。受診率の低い女性については、健診結果から拾い上げるスクリーニングの設計に別の工夫が必要と考えられます。

入院医療費は脳内出血が1入院あたり男性で約262万円

医科入院の疾患別データは次のとおりです。

疾患推計受診者数(年度平均)医療費総額平均在院日数(男性)1入院あたり医療費(男性)
虚血性心疾患2,394人約226億円約5.8日約94万円
脳梗塞2,180人約211億円約31日約153万円
脳内出血1,455人約175億円約57日約262万円
糖尿病1,389人約63億円約12日約51万円

受診者数は各月の受診者数を年度平均した推計値で、年間の入院患者数ではありません。医療費総額は年間の合計額のため、受診者数で割って1人あたりを算出することはできません。平均在院日数と1入院あたり医療費は男性の値です(報告書は男女別にのみ集計。女性は脳内出血が約55日・約243万円、脳梗塞が約30日・約139万円、虚血性心疾患が約5.6日・約71万円、糖尿病が約13日・約53万円)。

脳内出血は平均在院日数が約57日、1入院あたり医療費が約262万円(いずれも男性の値)で、4疾患の中で入院1件の負担が最も大きい疾患です。脳梗塞も在院日数約31日・約153万円と長期です。従業員が脳血管疾患で倒れた場合、入院だけで脳内出血は2か月前後、脳梗塞でも1か月規模になります。復職までの休業はさらに長くなり、医療費に加えて業務の穴埋め・復職支援のコストがかかります。

虚血性心疾患は在院日数が約5.8日と短い反面、推計受診者数は入院4疾患で最多です。入院が短期でも、退院後の再発予防と就業配慮は続きます。

健康経営で優先度が高い生活習慣病予防

この調査の数字は、企業の健康管理施策の優先順位づけに使えます。

脳内出血・脳梗塞の主要な危険因子は高血圧です。外来の高血圧症受診者は150.4万人、脳内出血の入院は1件あたり男性で約262万円・約57日でした。血圧管理という日常的な一次予防は、頻度は低いものの高額な入院と長期休業の予防に直結します。健診で血圧・脂質・血糖の有所見を放置しないこと、すなわち二次予防としての受診勧奨と保健指導が、企業側で取り得る現実的な介入です。

糖尿病は外来医療費総額の最多(約1,490億円)で、受診者の過半が50〜64歳です。重症化すれば人工透析に至るため、健診結果で血糖値の有所見がある従業員への受診勧奨が出発点になります。

健診事後措置と保健指導の実務

外来受診の中心が就労世代である以上、介入の場は職域です。実務の起点は健診の事後措置で、有所見者への医師の意見聴取、就業上の措置、受診勧奨までを一連の流れとして回します。健診結果を年度ごとに保管するだけでは、有所見の放置は見つけられません。経年で数値の悪化を追える管理があると、受診勧奨の対象者抽出が具体的になります。

40〜74歳を対象とする特定保健指導は、健保組合との連携(コラボヘルス)による実施率向上の余地が大きい分野です。男女差のデータを踏まえると、対象者の多い男性向けの生活習慣改善と、受診率の低い女性の拾い上げを分けて設計する形が実態に合います。

生活習慣病対策は、施策の効果が数年単位で現れる領域です。この調査のような外部統計を自社の健診有所見率と並べて見ると、自社の位置と優先課題の確認に使えます。

出典

健康保険組合連合会「令和6年度 生活習慣関連疾患における受診状況及び医療費に関する調査」(2026年7月公開・2026年8月4日取得)

 

執筆・監修
WellaboSWP編集チーム

「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画している者も所属している。

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公開日:2026/08/21