高年齢労働者の健康管理|65歳以上の就業者943万人、2026年4月適用の指針と健康経営度調査の設問

高年齢労働者の健康管理 vol.56 の記事タイトル画像。2026年4月適用の指針と健康経営度調査の設問

総務省統計局は2026年9月20日、「統計からみた我が国の高齢者」を公表しました。65歳以上の就業者は2025年に943万人となり、22年連続で増えて過去最多です。65〜69歳の2人に1人以上が働いており、65歳以上の雇用者の4分の3以上が非正規雇用です。

2026年4月には、改正労働安全衛生法で高年齢者の労働災害防止措置が事業者の努力義務になり、「高年齢者の労働災害防止のための指針」の適用が始まりました。指針は、健康診断と体力チェックによる状況の把握と、それに応じた就業上の措置を事業者に求めています。本文では、指針の内容と企業の対応状況、健康管理として必要な対応、健康経営度調査の該当設問を順に説明します。

統計で見る高年齢就業者の現状

2026年9月15日現在の推計で、65歳以上の人口は3,624万人、総人口に占める割合は29.6%と過去最高です。2025年の65歳以上の就業者は943万人で、就業者総数に占める割合は13.8%でした。人数・割合とも過去最高で、増加は22年連続です。

65歳以上の就業率は26.0%です。年齢階級別では65〜69歳が54.5%、70〜74歳が36.2%、75歳以上が12.6%で、いずれも過去最高でした。65歳以上の雇用者(役員を除く)586万人のうち非正規雇用は446万人で、76.1%を占めます。役員を除く雇用者586万人のうち、パート・アルバイトは309万人(52.7%)です。産業別の65歳以上就業者は、卸売業・小売業が131万人、医療・福祉が122万人、サービス業が108万人、農業・林業が88万人でした。

企業側の対応状況は、厚生労働省「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」(2025年12月19日公表、21人以上の企業237,739社)で分かります。65歳までの雇用確保措置は義務で、実施済みの企業は99.9%です。70歳までの就業確保措置は努力義務で、実施済みは34.8%(中小企業35.2%、大企業29.5%)でした。65歳以上を定年とする企業(定年制の廃止を含む)は34.9%です。

高年齢労働者の労働災害

厚生労働省「令和7年 労働災害発生状況」(確定値、2026年5月27日公表)によると、休業4日以上の死傷者は135,333人で、前年より385人減りました。年齢別の内訳(別表7)を合計すると、60歳以上は42,318人で、死傷者全体の31.3%です。

事故の型で最も多いのは転倒の37,195人(27.5%)で、前年より2.2%増えました。次いで腰痛などを含む「動作の反動・無理な動作」が22,166人(16.4%)、墜落・転落が20,864人(15.4%)です。転倒と腰痛は、加齢に伴う筋力・バランス能力の低下と関係の深い事故の型です。

年齢による差は、令和6年の公表資料に示されています。60歳以上の労働災害の度数率は、30代と比べて男性で約2倍、女性で約5倍でした。転倒による骨折等の度数率は、女性の60歳以上が20代の約19.5倍です。

労働安全衛生法第62条の2と高年齢者の労働災害防止のための指針(旧エイジフレンドリーガイドライン)

2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)で、第62条の2が新設されました。事業者は、高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない、という規定です。施行日は2026年4月1日です。努力義務のため罰則はなく、法律にも指針にも「高年齢者は何歳以上」という定義はありません。

この条文に基づき、厚生労働大臣は2026年2月10日、「高年齢者の労働災害防止のための指針」(指針公示第1号)を公示しました。適用は2026年4月1日からです。2020年3月から運用されてきたエイジフレンドリーガイドライン(基安発0316第1号)は、2026年3月31日で廃止されました。通達によるガイドラインから、法律に根拠を持つ大臣指針に位置づけが変わっています。

指針が事業者に求める措置は、次の5つです。1つめは、経営トップの方針表明、安全衛生委員会での調査審議、リスクアセスメントを含む安全衛生管理体制の確立です。2つめは、設備や装置の導入と作業管理による職場環境の改善です。3つめは、健康診断と体力チェックによる高年齢者の健康や体力の状況の把握、4つめは、就業上の措置や業務のマッチングなど健康や体力の状況に応じた対応、5つめは安全衛生教育です。

旧ガイドラインからの主な変更点は、リスク低減措置の優先順位(危険な作業の廃止・変更等、工学的対策、管理的対策、個人用の装備の使用の順)の明記と、フレイル・ロコモティブシンドロームへの配慮の明記です。体力チェックを青年期・壮年期から行うことが望ましいとした点、健康や体力の情報の取扱いに本人の同意と事業場内の手続きを求めた点、治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)を引用した点も新しくなりました。施行通達(基発0210第1号)は、法定健診の対象外となる短時間勤務者が特定健診などを受診しやすくする配慮を求め、骨粗鬆症検診の周知も望ましいとしています。

企業の対応状況

厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)」(2026年8月7日公表)によると、60歳以上の労働者がいる事業所は全事業所の80.6%です。この事業所のうち、エイジフレンドリーガイドラインを知っている事業所は24.8%(前年21.6%)、知っていて高年齢労働者の労働災害防止対策に取り組んでいる事業所は20.4%(前年18.1%)でした。事業所の規模による差が大きく、知っている割合は10〜29人の事業所で19.6%、1,000人以上で67.9%です。

取り組んでいる事業所の取組内容(複数回答)は、作業管理が61.0%、健康や体力の状況に応じた対応が45.4%、リスクアセスメントが27.9%、設備・装置の導入が24.9%、方針表明が21.9%、教育が19.7%、体力チェックが10.6%でした。取組内容の中では、体力チェックと教育の割合が低くなっています。

高年齢労働者の健康管理として必要な対応

指針の5つの措置のうち、健康管理に関わる部分を中心に、企業が整える対応を示します。

定期健康診断の対象者の判定

定年後の再雇用者や短時間勤務者の定期健康診断は、2つの条件で実施義務を判定します。無期雇用、または1年以上の契約(更新により1年以上使用される予定、もしくは1年以上引き続き使用されている場合を含む)で、かつ1週間の所定労働時間が同じ業務の通常の労働者の4分の3以上であれば、実施義務があります(厚生労働省の通達による基準)。所定労働時間がおおむね2分の1以上の労働者にも実施が望ましいとされています。65歳以上の雇用者の76.1%が非正規のため、この判定を誤ると健診の対象から漏れる人が出ます。対象外の労働者には、特定健診や自治体の健診を受けやすいように勤務の配慮をします。骨粗鬆症検診の周知も、施行通達で望ましいとされています。

健診結果に基づく就業上の措置

指針は、健康診断の結果に基づく就業上の措置を求めています。医師の意見を踏まえ、作業内容や勤務時間を調整します。高年齢労働者の受け入れを増やす事業場では、事後措置の対象者も増えるため、産業医の面談枠と就業上の措置の手順を確認しておきます。

体力チェックによる身体機能の把握

指針は体力チェックを「望ましい」と位置づけ、フレイルチェックや身体機能のセルフチェックを例示しています。施行通達(基発0210第1号)は、転倒等リスク評価セルフチェック票、労働安全衛生総合研究所のステップテスト、質問紙による全身持久力の評価、新体力テストを挙げ、補足通達(基安安発0225第2号)はステップテスト(JST・JST2)、WLAQ、新体力テストの手法を示しています。取り組んでいる事業所のうち体力チェックを行っているのは10.6%ですが、転倒リスクの高い労働者を事前に把握できる手段です。評価基準を設けて就業上の判断に使う場合は、本人の同意と事業場内の手続きを先に決めます。

転倒・腰痛を防ぐ職場環境の改善

指針が示すリスク低減措置の優先順位に沿って、まず危険源を取り除き、次に段差の解消、通路の照度確保、床の滑り止め、手すりの設置といった工学的対策を行い、作業手順の見直しや注意喚起は最後に位置づけます。重量物の取扱いには補助機器を使い、中腰や持ち上げの作業を減らします。

持病がある労働者の治療と仕事の両立

指針は治療と就業の両立支援指針を引用しており、通院や服薬をしながら働く労働者には、主治医の意見をもとに勤務時間や作業内容を配慮します。降圧薬や血糖降下薬を服用している労働者の高所作業や車両運転は、めまいや低血糖のリスクを考慮して判断します。

運動・栄養の支援とメンタルヘルス

健康保持増進のための指針(THP指針)に基づく運動指導や栄養指導は、体力の維持に直接つながります。定年後の再雇用では、役割や処遇の変化が心理的な負担になる場合があります。ストレスチェックの結果を年代別に見て、高年齢の労働者に特有の傾向がないかを確認します。

本人と管理職への安全衛生教育

加齢による視力・聴力・バランス能力の変化を本人が自覚できる教育と、管理職が業務の配分や作業環境を配慮する方法を学ぶ教育の両方が必要です。取り組んでいる事業所のうち教育を行っているのは19.7%で、体力チェックに次いで低い項目です。

健康経営度調査の高年齢従業員に関する設問

健康経営優良法人2027の認定に使われる令和8年度健康経営度調査(大規模法人部門)では、Q49「高年齢従業員特有の健康課題に特化した取り組み」が評価項目の一つ(選択項目)です。選択肢は、身体機能を補う設備・装置の導入や職場改善、ヒヤリハット事例からのリスクの洗い出しと危険マップの作成、短時間勤務や残業免除などを本人が選べる制度、通勤負担への配慮、体力や体調に応じた業務負担の配慮、定年後再雇用者が利用できる病気休職制度、高年齢従業員を対象とした運動習慣・食生活のセミナー、運動機能のチェックや認知症リスク検査の定期的な実施の8つと、その他です。高年齢従業員はいるが特に行っていない場合は評価項目に不適合となり、高年齢従業員がいない場合は評価上不利になりません。年齢の定義は自社で決めてよく、調査票はエイジフレンドリーガイドラインを参照するよう注記しています。

中小規模法人部門の認定申請書ではQ22が同じ内容の設問で、評価項目④〜⑩のうち2項目以上を満たせば適合する選択項目の一つです。大規模法人部門との主な違いは、高年齢従業員を対象とした教育の実施が選択肢に入っていることと、運動機能のチェックの選択肢に認知症リスク検査の文言がないことです。

関連する設問もあります。運動機会の増進の設問(大規模Q54)は、認定基準を満たす従業員参加型の取り組みに、体力測定・転倒等リスク評価・ロコモティブシンドロームのチェックといった運動機能のチェックを含めています。従業員の年代構成を記入する設問(大規模Q7)には60歳以上の区分があり、中小規模法人部門の従業員数の設問(Q4)には65歳以上の人数の記入欄があります。テーマ別ベストプラクティス選定へのエントリー設問(大規模Q77、中小Q54)の取り組み分類には「高年齢従業員に配慮した健康づくりや職場環境整備の取り組み」があります。

指針の5つの措置と健康経営度調査の選択肢は重なる部分が多く、設備の導入と職場改善、業務負担の配慮、運動機能のチェックは、指針への対応がそのまま調査の回答になります。指針にあって調査の選択肢にない項目は方針表明と健康診断による状況把握(大規模では安全衛生教育も)で、調査の選択肢にあって指針で直接触れていない項目は病気休職制度と通勤負担への配慮です。

活用できる公的支援

中小企業事業者向けに、エイジフレンドリー補助金(令和8年度)があります。対象は、事業を1年以上実施し、労災保険が適用される60歳以上の労働者(役員を除く)が常時1名以上いる中小企業事業者です。専門家総合対策コースは、専門家によるリスクアセスメント(第1段階)が補助率5分の4、設備の導入や運動指導など(第2段階)が補助率2分の1で、上限は合計100万円です。熱中症対策コースは補助率2分の1で上限100万円、コラボヘルスコースは補助率4分の3で上限30万円です。

申請期間は2026年5月20日から10月31日までで、専門家総合対策コースの第1段階は9月30日で受付を終了しました。予算額に達した場合は期間の途中でも受付を終了することがあります。申請先は日本労働安全衛生コンサルタント会です。

産業保健総合支援センターでは、高年齢労働者の健康管理や体力チェックの導入について、事業者からの相談を無料で受け付けています。50人未満の事業場は地域産業保健センターで健診後の保健指導や医師の意見聴取を利用できます。

執筆・監修
WellaboSWP編集チーム

「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画している者も所属している。

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