【産業医執筆】熱中症対策、義務化2年目の夏|死傷者が過去最多を更新した職場で今すべきこと
職場の熱中症対策が事業者の義務になって、今年で2年目の夏を迎えます。義務化されたのだから災害は減る——そう考えたいところですが、令和7年(2025年)の職場での熱中症による死傷者は1,803人。前年から546人増え、統計開始以来最多を更新しました(厚生労働省「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」2026年5月27日公表)。義務化は出発点であり、2年目に問われるのは去年整えた体制をどう運用するかです。本記事では、産業医の立場から2年目に点検したい運用ポイントを整理します。
義務化から1年、職場で何が起きたか
厚生労働省の確定値によると、令和7年の職場における熱中症の死傷者数は1,803人でした。前年(令和6年)の1,257人を546人上回り、約43%の増加です。統計開始以来の最多を記録しました。一方、死亡者数は19人で、前年の31人から12人減っています。背景には、令和7年6〜8月の平均気温が統計開始以来最高を記録した猛暑があります。
業種別では、死傷者数は製造業が337人、建設業が278人で、この2業種だけで全体の約4割を占めます。屋内外を問わず、暑熱を扱う現場に災害が集中しています。
対策が義務化された後の年に、死傷者はむしろ増えました。猛暑という外的要因はあるものの、義務化が対策の完了を意味しないことを示す数字です。制度を整えるだけでなく、現場で機能させる段階に入っています。
なお、義務化の法令上の内容、WBGT値の基準や罰則の詳細は別記事で解説しています。本記事末尾のリンクを参照してください。
令和8年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」とは
厚生労働省は毎年、労働災害防止団体などと連携して「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。令和8年版は5月1日から9月30日まで、4月を準備期間、7月を重点取組期間として展開されます(厚生労働省、2026年3月19日公表)。
このキャンペーンが事業者に求める対策は、2025年6月施行の改正労働安全衛生規則の義務内容と重なります。第一に、WBGT値(暑さ指数)を把握し、その値に応じた予防対策を実施すること。第二に、熱中症の早期発見のための体制整備、重篤化を防ぐ手順の作成、関係作業者への周知を行うこと。第三に、糖尿病や高血圧症など、熱中症の発症に影響する疾病を持つ人への医師等の意見を踏まえた配慮を行うことです。
2年目の事業所にとって、このキャンペーン期間は新しいことを始める機会というより、去年の対応を点検し直すきっかけになります。公的な期間に合わせて社内の運用を見直すと、担当者間で動きをそろえやすくなります。
2年目に点検したい運用ポイント
義務化初年度に体制を整えた事業所でも、2年目は形骸化が起こりやすい時期です。次の3つの観点で点検しておくと、抜けが見つかります。
報告体制と対応手順が実際に機能しているか
去年作成した体調不良者の報告ルートや、緊急時の対応手順が、現場の担当者にきちんと伝わっているか。書面はあっても、誰が誰に連絡するかが曖昧なまま、というケースは少なくありません。手順書を一度声に出して読み合わせるだけでも、抜けに気づけます。
周知の対象に漏れがないか
昨年周知した内容も、新入社員や異動者、派遣・請負の作業者には届いていないことがあります。人の入れ替わりがあった職場ほど、シーズン前の再周知で対象漏れを防げます。
WBGT測定が対策につながっているか
測定器を用意しても、測りっぱなしで対策に反映されていなければ意味が薄れます。基準値を超えたときに誰が判断し、どう作業を調整するか。測定値と行動をつなぐ運用ルールがあるかを確認します。
産業保健スタッフが関与できるところ
2年目の運用で産業医・保健師が力を発揮しやすいのが、熱中症リスクに関わる基礎疾患を持つ従業員への配慮です。
クールワークキャンペーンでも、糖尿病・高血圧症などの疾病を持つ人への医師等の意見を踏まえた配慮が求められています。これらの疾患は体温調節や水分・電解質のバランスに影響し、熱中症の発症リスクを高めます。健康診断でこうした所見が出た従業員を産業保健スタッフが把握し、就業上の配慮意見につなげる流れを作っておくと、シーズン中の対応が滑らかになります。
また、暑熱環境の職場巡視や、体調確認の声かけ体制づくりも、産業保健スタッフが伴走できる領域です。社内に専任の保健師がいない事業所では、外部の産業保健サービスを活用して体制を補う選択肢もあります。
暑さが本格化する前に
熱中症対策の2年目は、新しい制度を導入する年ではなく、去年整えた仕組みを点検し、現場で動く状態に保つ年です。令和7年の数字は、制度の有無ではなく運用の質が結果を分けることを示しています。暑さが本格化する前のこの時期に自社の体制を一度見直しておくことが、従業員の安全と健康経営の両方につながります。
WellaboSWPでは、健康診断結果や産業医面談記録の一元管理を通じて、就業上の配慮が必要な従業員の把握や、安全衛生委員会の議題整理を支援しています。熱中症対策の体制を見直したい企業の方は、お気軽にお問い合わせください。
出典
厚生労働省「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)を公表します」(2026年5月27日公表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73330.html
厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58389.html
厚生労働省「令和8年 STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」(2026年3月19日公表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/coolwork_2026.html
厚生労働省「職場における熱中症予防情報」
https://neccyusho.mhlw.go.jp/
改正労働安全衛生規則(職場における熱中症対策の強化、2025年6月1日施行)
執筆・監修
WellaboSWP編集チーム
「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画している者も所属している。
