女性の健康課題と職場対応|女性も男性も、一般従業員も管理職も知っておきたい健康課題
経済産業省が2024年2月に公表した試算によれば、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は年間約3.4兆円。月経随伴症状、更年期症状、婦人科がん、不妊治療の4項目で算出された数字です。
この数字は「女性だけの問題」ではありません。職場の理解不足や制度の未整備が背景にあるため、男性管理職や男性同僚の理解、企業としての制度設計が解決の鍵になります。同じ試算では男性特有の健康課題(男性更年期、前立腺がん)も算出されており、性別を問わず健康課題は職場の論点として浮上してきました。
本記事では、女性の健康課題に職場としてどう向き合うかを、経済産業省や厚生労働省の公式資料に基づいて整理します。女性社員自身の参考にも、男性管理職・男性社員の理解にもつながる内容をめざしました。性別や立場を問わず読んでいただけたらと思います。
経産省試算が示した経済損失の内訳
経済損失は総額3.4兆円と推計されている
経済産業省は、令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業の調査として、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失を試算し、令和6年(2024年)2月に「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」として公表しました。対象としたのは、性差に基づく多数の健康課題のうち、規模が大きく、職域での対応が期待される4項目です。
- 月経随伴症状(生理痛、PMS、過多月経など)
- 更年期症状
- 婦人科がん
- 不妊治療
算出方法は、何らかの症状があるにもかかわらず対策を取っていない層の人数に、欠勤・パフォーマンス低下・離職・休職の要素と平均賃金を掛け合わせる手法です。結果として、社会全体で年間約3.4兆円の経済損失が推計されました。加えて、企業が支援に取り組むことによるポジティブインパクトは、最大で年間約1.1兆円との試算も示されています。
出典:経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(令和6年2月)
「欠勤」より「パフォーマンス低下」に注目
試算で注目したいのは、損失の中身です。算出要素には欠勤・パフォーマンス低下・離職・休職が含まれていますが、実際の影響として大きいのは「働いてはいるが本来のパフォーマンスを発揮できていない」状態、いわゆるプレゼンティーズムです。症状を抱えながらも休むほどではないと出勤を続け、生産性は本来の半分程度に落ちている。このような状態が常態化すると、本人にも事業にも累積的な損失が生じます。
欠勤や離職は人事データで可視化されやすい一方、パフォーマンス低下は本人も周囲も気づきにくい性質を持っています。職場として向き合う対象を「休む人」「辞める人」だけでなく「不調を抱えながら働き続ける人」にまで広げることが、損失低減の起点になります。
対策によるポジティブインパクトについて
経産省試算は、企業が女性の健康課題に取り組むことで生じうるポジティブインパクトを年間約1.1兆円と試算しています。離職防止、生産性向上、医療費抑制などの効果を合わせた数字です。
重要なのは、この数字が「コスト」ではなく「投資のリターン」として位置づけられている点です。健康経営は、従業員の健康保持・増進への取り組みを将来の収益につながる投資ととらえる考え方ですが、女性の健康課題への対応もこの枠組みのなかで位置づけられます。
女性のライフステージ別の健康課題について
女性の健康課題は、ライフステージごとに姿を変えます。職場として理解しておきたい代表的な課題を整理します。性別を問わず、上司や同僚にもこうした基礎知識があると、職場の対応が一段と的確になります。
月経期|月経困難症とPMS
月経に伴う症状には、月経困難症と月経前症候群(PMS)があります。月経困難症は、月経時の下腹部痛、腰痛、頭痛、吐き気などを指し、生活に支障をきたすほどの痛みを伴うこともあります。原因疾患(子宮内膜症、子宮筋腫など)が背景にある場合もあり、医療機関での診断・治療が必要なケースも少なくありません。
PMSは月経前の3〜10日に現れるイライラ、抑うつ、頭痛、むくみなどの症状群です。重症型のPMDD(月経前不快気分障害)では精神症状が顕著になり、業務遂行に影響が出ることもあります。
妊娠・出産期|妊娠中の体調変化と母性保護
妊娠期は、つわり、貧血、切迫早産など、本人の意思ではコントロールしにくい体調変化が連続します。労働基準法には母性保護規定が定められており、妊産婦の危険有害業務制限、産前産後休業、育児時間などが法的に保証されています。これらの制度の運用は、女性社員の健康と次世代育成の両面で基本となります。
育児・両立期|産後の体調変化や育児と仕事の両立困難
産後は、ホルモンバランスの急激な変化、睡眠不足、授乳に伴う体調変化が重なります。産後うつのリスクも高い時期です。育児と仕事の両立困難から離職に至るケースもあり、職場の柔軟な勤務制度と理解が重要になります。
更年期|エストロゲン低下に伴う多様な症状
更年期は、閉経の前後10年(一般的に45歳〜55歳前後)を指す期間です。日本産科婦人科学会は、閉経前の5年と閉経後の5年を合わせた10年間を更年期と定義しています。日本人女性の平均閉経年齢は約50歳とされています。
症状はホルモン(エストロゲン)の低下に伴い多岐にわたります。ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)、発汗、動悸、不眠、抑うつ、関節痛、めまい、集中力低下、記憶力低下など、人によって組み合わせも程度も異なります。NHK・労働政策研究・研修機構(JILPT)・女性の健康とメノポーズ協会・特定非営利活動法人POSSEによる共同調査(2021年)では、更年期症状を理由に離職した「更年期離職」を経験した人が約46万人にのぼり、収入減による経済損失は約4,200億円と推計されました。管理職以上のポストに就く年齢と重なるため、半数の女性が昇進を辞退した経験があるとも報告されています。
出典:NHK・専門機関共同調査(2021年)/経済産業省「女性活躍の推進」資料(2024年11月)
閉経後・高齢期|骨粗鬆症・生活習慣病リスクの上昇
閉経後はエストロゲンの保護作用が失われることで、骨粗鬆症、脂質異常症、心血管疾患のリスクが上昇します。高齢期の女性社員の健康管理は、エイジフレンドリー(高年齢労働者対応)の論点とも重なってきます。
男性の健康課題と相互理解について
経済産業省の試算は、男性特有の健康課題による経済損失も参考値として算出しています。男性更年期(LOH症候群)は約1.2兆円、前立腺がんは約600億円。男性更年期は医学的な病態定義が女性ほど明確ではなく、参考値という位置づけながらも、無視できない規模の経済損失と推計されています。
男性更年期(LOH症候群)とは
加齢に伴うテストステロン低下を背景とした症状群が、LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)です。40代以降の男性に見られ、疲労感、集中力低下、性機能の変化、抑うつ気分、睡眠障害などが主な症状です。日本泌尿器科学会と日本Men's Health医学会が「LOH症候群診療の手引き」を策定しており、医療機関での相談・治療が可能です。
女性更年期と比べて社会的な認知度がまだ低く、「弱音を吐けない」雰囲気のなかで一人で抱え込む男性社員も少なくありません。職場として、男性の健康課題も語ってよい話題として扱うことが、相互理解の出発点になります。
前立腺がん
前立腺がんは、男性のがん罹患数で上位に位置します。50歳以上の男性での発症が多く、初期は無症状のことが多いため、定期的な検診が早期発見の鍵となります。PSA検査による検診が普及しつつあり、企業の健康診断オプションに含めている例も増えてきました。
「お互いの健康課題を知る」文化を作ろう
女性の健康課題を学ぶことが男性社員に求められるのと同じく、男性の健康課題を理解することも女性社員にとって意味があります。性別を問わず、健康課題は人生のどこかで誰もが直面するものです。職場の文化として「健康課題は語ってよい話題」「お互いの状況を理解し合う」姿勢が育つと、特定の世代・性別に偏らない包摂的な環境につながります。
企業と従業員のあいだに生じているミスマッチ
経済産業省が公表した調査結果には、企業側と従業員側のあいだに認識のずれがある実態が示されています。
- 従業員側:約7割が「十分な支援がない」と感じ、上司や周囲の理解を望んでいる
- 企業側:約3割が「何をしたらいいかわからない」と回答
従業員は支援を求めているのに、企業は何から始めてよいかわからない。このミスマッチを埋めるには、まず制度設計と情報提供から着手するのが現実的です。「制度はあるが、利用が広がらない」という別のミスマッチも存在しますが、その手前で制度自体が整備されていないケースも依然として多いのが現状です。
管理職の不安と対応のすれ違い
管理職、特に男性管理職には「触れていいのか分からない」「ハラスメントになるのが怖い」という不安があります。一方、当事者の女性社員は「察してほしい」「説明するのが負担」と感じる場面もあり、双方の歩み寄りが進みにくい構造があります。
このすれ違いを解消するアプローチとしては、管理職の側が「個別の体調を詮索する」のではなく、「制度として誰でも使える選択肢を提示する」スタンスをとるのが有効です。「体調が悪そうですね」と踏み込むのではなく、「在宅勤務や時差出勤の制度がありますよ」「面談で気になることがあればいつでも相談できます」と選択肢を提示し、利用するかどうかの判断は本人に委ねる。この距離感が、職場での実装には適しているのではないでしょうか。
法改正が示している方向性について
女性活躍推進法改正(2025年)と健康配慮
2025年6月に女性活躍推進法が改正され、女性の職業生活における活躍の推進に際しては、女性の健康上の特性に配慮して行うべきことが明確化されました。「女性活躍と健康配慮はワンセット」という考え方が、法令上に明示されたかたちです。健康配慮なき活躍推進は、当事者にとって持続可能な働き方にならないという認識が背景にあります。
労働基準法の母性保護規定(既存制度の再確認)
労働基準法には、女性労働者の母性保護として以下の規定があります。
- 生理日の就業が著しく困難な女性に対する休暇制度(労基法第68条)
- 妊産婦の危険有害業務制限(労基法第64条の3)
- 産前産後休業(産前6週・産後8週、労基法第65条)
- 育児時間(労基法第67条)
これらは長く存在する規定ですが、必ずしも全社員に周知されているとは限りません。既存制度を改めて社内で周知し、利用しやすい運用にすることが、新しい制度設計より先に取り組むべき出発点になることもあります。
健康経営度調査での評価
経済産業省の健康経営度調査では、女性の健康課題への取り組みが評価項目に組み込まれています。「女性のキャリア継続に向けた健康課題に関する支援」の設問は令和6年度時点で評価項目に追加されており、令和7年度調査では女性の健康課題に関する設問の評価が一段と強化され、教育施策の内容まで具体化された必須項目として位置づけられています。令和7年度健康経営優良法人認定でも、女性の健康課題に関する認知向上のための取組状況を問う設問が選択必須項目として位置づけられています。
設問例として、PMS軽減のための低用量ピル費用補助、婦人科検診の費用補助、フェムテック・フェムケアサービスの導入、女性の健康に関するセミナー実施などが選択肢に含まれます。健康経営優良法人認定を目指す企業にとって、女性の健康課題への取り組みはますます重要な領域になってきています。
出典:経済産業省「健康経営度調査票」(令和7年度版)
職場で実装できる支援の実務
情報提供・研修の実施
最初の一歩として有効なのが、男女双方を対象としたヘルスリテラシー研修です。女性の健康課題を女性社員だけに教えるのではなく、男性管理職・男性社員にも届ける設計が、職場全体の理解を底上げします。逆に、男性更年期や前立腺がんといった男性の健康課題も合わせて扱うと、性別を問わない学びの場として機能します。
研修の頻度は年1〜2回程度、外部講師(産業医、婦人科医、保健師など)を招いて実施するのが一般的です。e-ラーニングを併用することで、参加機会を確保する企業も増えてきました。
相談窓口の設置
健康課題は、上司や同僚には相談しづらい話題が含まれます。匿名性が担保された相談窓口の設置が、利用ハードルを下げる鍵となります。社内の保健師・産業医、社外の専門相談窓口、オンライン医療相談サービスなど、複数のチャネルを用意することが望まれます。
柔軟な勤務制度
症状による不調がある日に無理せず働ける制度設計も重要です。
- 時差出勤:通勤時の体調不良の回避
- 在宅勤務・テレワーク:体調に応じた勤務場所の選択
- 時間単位年次有給休暇:通院や短時間離席への対応
- フレックスタイム:日々の体調に合わせた労働時間配分
これらは女性の健康課題への対応に限らず、治療と仕事の両立支援、育児・介護との両立、エイジフレンドリーな職場づくりなど、複数の論点を横断して活用できる制度です。目的別に制度を増やすのではなく、横断的に使える制度を整備するアプローチが、運用の負担も少なく実装しやすくなります。
医療アクセス支援
婦人科検診の費用補助、低用量ピル費用補助、不妊治療費用補助など、医療アクセスのハードルを下げる支援も実装が進みつつあります。特に、健康保険組合と連携したコラボヘルスの枠組みで補助制度を設計すると、企業単独より広い支援が可能になります。
フェムテック・フェムケアの位置づけ
産業保健全体のなかの一手段として
フェムテックは、Female(女性)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、女性特有の健康課題を技術で解決する商品・サービスを指します。月経管理アプリ、オンライン婦人科診療、低用量ピルのオンライン処方、更年期症状ケアサービスなどが含まれます。
フェムテックは有力な選択肢のひとつですが、それだけで女性の健康課題が解決するわけではありません。職場の制度、文化、医療アクセス、産業保健スタッフによる相談体制など、複合的な要素が組み合わさって初めて支援は機能すると考えられます。フェムテック導入を施策の中心に据えるのではなく、産業保健全体の枠組みのなかに位置づけて運用するのが現実的なアプローチであると考えています。
経産省フェムテック実証事業からの事例
経済産業省は2021年度から「フェムテック等サポートサービス実証事業」を実施し、企業による導入事例を公表してきました。丸紅株式会社では、月経・更年期症状サポートを含むフェムテックプログラムをトライアル導入し、参加者の業務パフォーマンス発揮度がトライアル前後で17%改善したと報告されています。企業向けセミナーで男性社員にもアプローチし、全社的な認知向上を進めた点が特徴です。
出典:経済産業省「フェムテック等サポートサービス実証事業」事例集
導入時の留意点
フェムテックを職場で導入する際の留意点を整理しておきます。
- 利用は任意(参加・不参加で不利益が生じない設計)
- プライバシーの厳格な管理(誰が利用しているかが見えない仕組み)
- データの取り扱いに関する事前の説明と同意
- 特定のサービス・ベンダーに依存しすぎない(選択肢の確保)
- フェムテック単独ではなく、相談窓口・研修と組み合わせて運用
産業医・保健師面談の活用
申し出やすい環境づくり
健康課題に関する相談は、本人にとって踏み出しにくいものです。特に職場の人間関係に関わる相談は、誰に話してよいか迷う場面が多いと考えられます。
申し出やすい環境を整えるための要素には、以下のようなものがあります。
- 面談の窓口・申込方法を社内で明示する
- 面談記録の取扱いと共有範囲を本人に説明する
- 産業医・保健師が定期的に社内に常駐する時間を設ける
- オンラインでの面談を選べるようにする
- 男性産業医・女性産業医・男性保健師・女性保健師の選択肢を用意する(可能な範囲で)
産業医の視点|婦人科医との連携の実際
女性の健康課題にまつわる相談で、婦人科医との連携が必要になる場面は思っている以上に多くあります。月経困難症で長年市販薬だけでしのいできた方が低用量ピルという選択肢を知らないまま不調を抱え続けているケース、過多月経の背景に子宮筋腫が見つかるケース、更年期症状とメンタル不調の鑑別が難しく本人も周囲も困惑しているケース。こうした場面で産業医として大切にしていることは、診断や処方に踏み込むのではなく、適切な医療につなぐための判断と、橋渡しの設計です。
紹介のタイミングについては、「業務影響が出ているか」「本人がより専門的な相談先を求めているか」「症状の背景にある原疾患の鑑別が必要か」の三つを目安にしています。とくに最後の点は産業医面談だけでは判断しきれないことが多く、迷ったら早めに婦人科受診を勧めるようにしています。本人にとっては「産業医に話したことで婦人科に行くきっかけができた」という導線そのものが、最初の一歩のハードルを下げる役割を果たすこともあります。
実務上、産業医と婦人科主治医のあいだの情報連携は、本人の同意を前提とした診療情報提供書のやり取りが中心となっています。ここで意識しているのは、「職場側が知っておくべき情報」と「本人が職場に伝えたくない情報」を切り分けることです。診断名そのものを職場に共有する必要はなく、就業上の配慮事項に絞って情報を整理すれば足りる場面がほとんどであると考えられます。受診先を案内する際は、低用量ピルの処方経験が豊富、漢方も併用できる、女性医師が在籍するなど、本人の希望に沿った選択肢を複数提示できると、その後の継続受診につながりやすくなります。
医療機関側は職場の事情を、産業医側は医療現場の制約を、互いに想像しきれないのが現実です。だからこそ、本人を真ん中において、双方が補い合う構図をどうつくるかが、産業医として意識している部分です。とくに中小規模の事業場では、社内に相談先が限られているからこそ、外部の婦人科とのつながりが従業員の支援の幅を大きく広げます。
保健師の視点|女性社員との面談で意識していること
女性社員との面談で意識していることがいくつかあります。健康相談は「申し込んでもらう」までのハードルが何より高いと感じています。ここを下げる工夫として、健康診断の事後フォロー面談に組み込んで「全員に声をかける」設計にしたり、月経や更年期に関する社内コラムを定期的に流して話題化したりしています。「特別な人が受ける場」ではなく「誰もが立ち寄る場」として面談を位置づけることが、結果として一番話しやすい入り口になる印象があります。
面談の場では、いきなり健康課題の核心に触れるのではなく、生活リズムや睡眠から入ることが多いです。「ここのところ眠れていますか」と聞いていくと、ほてりや動悸、月経周期の変化が背景にあったとわかる場面もあります。一方で、月経や性に関する話題、メンタル不調は本人の方からなかなか切り出されにくいものです。睡眠や肩こり、頭痛のような相談されやすい話題に比べて、こうしたテーマは温度差があると感じます。話題を待つだけでなく、「同じような症状で相談に来る方も多いですよ」と一般化したかたちで提示すると、本人も話しやすくなることがあります。
職場と本人の橋渡しでは、本人の代弁者になりすぎないことを意識しています。本人と一緒に「上司に何をどこまで伝えたいか」を整理し、伝え方を一緒に考えるところまでが保健師の役割だと考えています。最終的には本人が自分で動けるようになることが、長い目で見て本人の力になります。代わりに動いてしまうほうが短期的には楽ですが、それを続けると本人の中に何も積み上がらないという感覚があります。
個別の面談で見えた傾向は、職場全体の制度設計に還元できる材料でもあります。「相談が増えてきたテーマ」「制度はあるが利用が広がらない領域」を、人事や産業医と共有しながら、個別ケースの集積を集団へのアプローチに翻訳していく。一人ひとりの困りごとに寄り添う関わりと、その積み重ねを職場全体の支援の改善につなげていく営みは、社内保健師ならではの仕事だと感じています。
中小企業での実践について
リソースが限られていてもできること
産業医がいない、人事部門が小規模、健康経営担当者を専任で置けない。このような状況の中小企業でも、女性の健康課題への取り組みは進められます。低コストで着手できる施策から始めるのが現実的であると考えられます
- 既存の労基法上の母性保護規定を社内で周知する
- 生理休暇の取得しやすさを点検する(取得時の理由の聞き方、申請方法など)
- 婦人科検診を健康診断オプションとして提供する(費用補助の有無は別論点)
- 健康保険組合のサービス(婦人科オンライン相談、健康セミナーなど)を活用する
外部支援の活用
50人未満の事業場では、地域産業保健センターによる無料相談を活用できます。女性の健康課題を含めた相談に対応しています。産業保健総合支援センター(さんぽセンター)でも、女性の健康をテーマとした研修やセミナーが定期的に開催されています。
健康保険組合との連携(コラボヘルス)も有効です。健保組合の保健事業として婦人科検診の費用補助を実施している例があり、企業独自で全額負担しなくても支援を提供できる仕組みがあります。
まとめ
女性の健康課題に職場として向き合うことは、年間3.4兆円という経済損失への対応だけにとどまらない意味を持ちます。月経・妊娠・出産・育児・更年期・閉経後と続くライフステージのなかで、女性社員が安心して働き続けられる環境をつくることは、人材戦略そのものです。加えて、男性更年期や前立腺がんといった男性の健康課題も同じ視座で扱うことで、性別を問わない包摂的な職場文化が育っていきます。
2025年の女性活躍推進法改正、令和7年度健康経営度調査での評価項目強化など、政策の後押しも進んでいます。既存の労基法上の母性保護規定の運用見直しから、フェムテックの導入、産業医・保健師による相談体制の整備まで、自社の状況に合わせて段階的に取り組める論点は多くあります。「何から始めればよいか分からない」状態から一歩踏み出すことが、3.4兆円という大きな数字を一企業の現実的な行動につなぎ直す出発点になるのではないでしょうか。
執筆・監修
WellaboSWP編集チーム
「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画している者も所属している。
