ライフデザイン経営とは?健康経営との関係性は
2026年3月に開催された第5回健康経営推進検討会では、来年度の健康経営度調査(大規模法人部門)に「ライフデザイン経営」に関するアンケート項目を新設することが議論されました。
ライフデザイン経営はまだ耳慣れない言葉であると思います。本記事では、ライフデザイン経営の概念と健康経営との関係、そして次年度調査での位置づけについて、検討会の資料をもとに整理をしてみました。
ライフデザイン経営とは
経済産業省は「ライフデザイン経営」を以下のように定義しています(第4回健康経営推進検討会資料より)。
「社員がキャリアとライフを両立し、充実したライフデザインを実現できる環境を提供することで、人材の能力を最大限に引き出し、企業価値向上につなげる経営のあり方」
わかりやすく言えば、仕事だけでなく社員の生活・人生設計全体に企業として寄り添い、働きがいと働きやすさの両立を支援する経営姿勢となります。育児・介護・健康・資産形成・キャリア選択といった、社員それぞれのライフイベントや価値観を会社として受け止め、支援の仕組みを整えていくことが求められていると考えられます。
健康経営との違いですが、健康経営が「従業員の健康を経営的視点で戦略的に管理する取り組み」であるのに対して、ライフデザイン経営はより広く「社員の人生設計全体への支援」を指しています。両者は重なる部分も多く、経済産業省は健康経営の一環として取り組む意義があると位置づけられています。
ライフデザイン経営と健康経営との関係
ライフデザイン経営と健康経営はなぜ結びつくのでしょうか。第4回健康経営推進検討会の参考資料では、次のように整理されています。
「働きがいのあるエンゲージメントが高い状態、働きやすい心理的ストレスが少ない状態は、心身の健康にとって重要な要素」
したがってライフデザイン支援によって社員のエンゲージメントが高まり、それが心身の健康にもつながるという連鎖が想定されていると考えられます。このことを裏付けるデータも示されており、経済産業省「従業員のウェルビーイング実現に向けた取組に関する調査」(2025年1月実施)によると、ライフデザイン支援に取り組む企業は従業員エンゲージメントが統計的に有意に高く、採用後3年以内の離職率が低く、応募倍率が高い傾向が確認されています(柴田悠教授作成)。さらにSOMPOインスティチュート・プラスの調査では、エンゲージメントが高まるとプレゼンティーズム(出社しているものの健康問題により業務効率が落ちている状態)の改善や売上・営業成績の向上につながることも示されています。
ライフデザイン経営の具体的取り組み
第4回健康経営推進検討会の参考資料では、ライフデザイン経営・ライフデザイン支援の主な取組例として以下の5つが示されています。
① 従業員の暮らしに寄り添った働き方改革や経営を行う
営業時間の短縮、定休日の設定、残業ではなくスキルアップで稼ぐ給与体系への見直し、配属の柔軟化など。制度設計の前に、経営者が社員の生活実態に目を向けることが出発点とされています。
② 制度があっても利用できない障壁を取り除く
制度があっても使われない状況が多くの企業で起きています。プッシュ型の情報提供、DX、業務の分業・多能工化といった業務改革によって、制度を実際に活用できる環境をつくることが求められています。
③ 安心して休める、制度を利用できる雰囲気をつくる
休暇・福利厚生等の制度の周知と利用促進を積極的に実施し、取得を後押しする文化の醸成が重要とされています。ライフデザイン研修の実施により、初の男性育児休暇取得者が生まれたり、手術が必要な診察結果を受けた職員が遠慮なく休暇を取れるようになったりした事例も紹介されています。
④ ライフステージによる負担の有無に関わらず、働きたいを応援する
出勤時間を10分単位で設定することでフルタイムで働ける職員が大幅に増加したり、ベビーシッターや家事支援サービス等を福利厚生として補助することで肉体的・精神的な負担を軽減したりした事例が挙げられています。
⑤ 律的なキャリア形成支援
1on1でのキャリアとライフデザインの対話(働く上で重視する価値観の尊重)など、個人が自分のライフをどう設計するかを考える機会を提供することも取組例として示されています。
筆者としてはライフデザイン経営に新たに取り組む際に、新しい施策をうったり制度の変更に取り組むのではなく、②、③のような現在の制度をうまく利用してもらうにはどうしたらいいかということから始め、徐々に従業員のニーズの高い制度や取り組みを追加していくといいのではないかなと思います。
先行企業の取組事例
第4回健康経営推進検討会では、ライフデザイン経営を実践している企業の事例が紹介されています。
株式会社銚子丸は、人手不足への対応として閉店時間の前倒しや全店舗の「店休日」設定、固定時間外手当の削減(70時間→30時間)といった働き方改革を実施しました。「残業ではなく、スキルアップで稼ぐ給与体系」への転換も行い、互いにサポートしあえる職場づくりを推進。その結果、女性正社員が4倍(20人→80人)に増加し、離職率は2016年の12.6%から2024年には7.5%まで改善、売上高も2016年5月期比で10%超増加しています。
株式会社日本旅行では、全社員の半数を女性が占める状況を踏まえ、性別・年代を問わない働き方改革に取り組みました。社内制度があっても部署ごとの事情で取り入れられない「壁」や制度の周知不足といった課題をPTで洗い出し、ライフステージを問わず利用できる福利厚生サービスや、育児・介護等のセミナー・専門家相談を導入。「働き方改革はブレーキをかけると誤解されがちだが、ゴールは生産性向上やエンゲージメントに繋げ、イノベーションを起こし業績を上げること」という姿勢で推進されています。
いずれの取り組みも「制度をつくる」だけでなく、制度が実際に使われる雰囲気や文化の醸成を重視している点が共通していると考えられます。
次年度の健康経営度調査(大規模法人部門)への影響
第5回健康経営推進検討会では、来年度の大規模法人部門の調査票に、ライフデザイン経営に関するアンケート項目を新設することが提案されています。ただし、認定要件への追加ではなく、実態把握を目的としたアンケート追加の検討段階です。 現段階では以下のような設問案が示されています(第5回検討会資料より)。
Q80. ライフデザイン経営について知っていますか
Q81. ライフデザイン経営に関連する取組を実施していますか
Q81で「実施している」と回答した場合には、取組内容として以下の11項目が選択肢として示されています。
- 経営層からのライフデザイン支援に関するメッセージ発信
- 担当部署の設置や役員・担当者の役割への位置づけ
- 多様なライフデザインを実現したい従業員が活躍できる人材戦略の具体化
- 定量的な指標の設定とPDCAの実施
- 従業員へのプッシュ型情報提供や研修
- 管理職向けの従業員ライフデザイン支援に関する研修機会の設置
- キャリアとライフに関する個人の計画や展望を考える機会の提供
- 上司等による個別の相談の場の設置
- 外部サービスや専門家による相談窓口の紹介
- ロールモデルやコミュニティ等でのコミュニケーションの場の提供
- その他
これらを見ると、「経営層の関与」「体制整備」「従業員への情報提供」「個人の相談支援」という層で取組の成熟度を問う構造になっていますね。上流の方針から始まり、体制整備、具体的な施策へと流れができているよい質問構造ではないかと思います。
まとめ
ライフデザイン経営は、健康経営と接続する新しい視点として、経済産業省が来年度以降の調査に位置づけようとしている概念です。エンゲージメント・離職率・生産性との関連もデータで示されてきており、人材確保が課題となっている企業にとっても関心の高いテーマで興味深い内容です。。
来年度の調査での正式な追加や具体的な評価方法については、今後の健康経営推進検討会での議論を確認してください。
執筆・監修
WellaboSWP編集チーム
「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画している者も所属している。
