健康経営度調査の新指標POS(組織サポート認知)とは?測定方法を解説

令和7年度健康経営度調査票をご覧になった健康経営担当者の方の中には、Q72「企業の健康風土の醸成状況」で初めて「POS(知覚された組織的支援)」という言葉に触れた方も多いのではないでしょうか。

これまで健康経営の効果測定といえば、健診、ストレスチェックの各指標、労働時間関連、生産性調査が主体となっていました。しかし、健康経営の真の目的は従業員一人ひとりの健康を守ることだけでなく、組織全体の活力を高め、企業価値を向上させることにあります。

そこで注目されているのが「組織風土」という視点です。どれほど優れた健康施策を導入しても、従業員が「会社は自分たちのことを本当に考えてくれているのだろうか」と疑問を持っていては、施策の効果は限定的になってしまいます。

本記事では、健康経営度調査で新たに測定尺度として採用されたPOSについて、基礎知識から具体的な測定方法までを解説してみたいと思います。

なぜ今「POS」なのか?健康経営度調査での位置づけ

健康経営度調査における新たな指標

令和7年度健康経営度調査では、Q72において「健康経営の継続的な実施による組織全体の雰囲気や風土といった企業の健康風土の醸成状況」を問う設問が設けられました。

さらに、SQ1では「企業の組織風土を測定する尺度を用いて変化を把握している場合」の具体的な測定尺度として、以下の選択肢が提示されています。

  1. 職業性ストレス簡易調査票の回答結果から、上司の支援/同僚の支援に関する得点を算出
  2. 従業員自身が実感する組織からの支援度合い(POS)を測定尺度を用いて把握
  3. 従業員自身が実感する上司からの支援度合い(PSS)を測定尺度を用いて把握
  4. 職場のソーシャルキャピタルの状況を測定尺度を用いて把握

このうち、2番目の選択肢がPOS(Perceived Organizational Support:知覚された組織的支援)です。

健康経営ガイドブックでの言及

2025年3月に改訂された健康経営ガイドブックでは、「企業の健康風土の醸成状況評価指標例」としてPOSが明記されています。

ガイドブックでは、POSについて以下のように説明されています。

「知覚された組織的支援(Perceived Organizational Support:POS)は、従業員が実感している組織体支援の度合い(従業員と会社との関係性の質)を評価する指標である。Survey of Perceived Organizational Support(SPOS)を活用し測定する。※8項目日本語版あり。」

また、POSの測定に関する研究や実践方法については、産業医科大学の森晃爾教授、永田智久准教授、小田上公法助教らが編著した「健康経営を科学する!実践を成果につなげるためのエビデンス」(2023年10月)に詳しく解説されています。

つまり、POSは健康経営を推進する上で、従業員の健康状態や行動変容だけでなく、組織と従業員の関係性の質を測る指標として、国が公式に推奨し始めた測定尺度なのです。

POSとは

POSの定義

POS(Perceived Organizational Support)とは、日本語で「知覚された組織的支援」または「組織サポート認知」と訳されます。

この概念は1986年にアメリカの心理学者アイゼンバーガー教授らによって提唱されたもので、従業員が組織に対して抱く、以下2点に関する信念として定義されています。

  • 組織は自分の貢献を価値あるものとして評価しているか
  • 組織は自分の幸福(ウェルビーイング)を気にかけているか

ここで重要なのは、「実際に組織がどれだけ支援しているか」ではなく、「従業員がどう感じているか」という主観的な認知を測定する点です。

例えば、会社が多額の費用をかけて福利厚生制度を整えていても、従業員に「これは会社が本当に私たちのことを考えてくれている証だ」と感じてもらえなければ、POSは高まりません。逆に、コストをかけない施策でも、従業員に「会社は自分たちの声を聞き、配慮してくれている」と感じてもらえれば、POSは向上します。

POSの重要性

POSの理論的背景には「社会的交換理論(Blau, 1964)」と「返報性の規範(Gouldner, 1960)」があります。

組織サポート理論によれば、組織が従業員にポジティブな資源を提供することで、POSが従業員に組織の目標達成を支援する義務感を引き起こすとされています。

社会的交換関係は、パートナー(この場合は組織)への信頼に関連した長期的な利益を重視する点で、短期的・契約的な経済的関係とは異なります。従業員と組織の関係には以下の2つのタイプがあると考えられています。

経済的交換: 労働時間に対して給与をもらうという、契約に基づいた関係

社会的交換: 信頼や好意に基づいた長期的な関係

従業員が「組織は自分を大切にしてくれている」と感じると、返報性の規範が働き、「自分も組織に貢献したい」という自発的な義務感が生まれます。これが、単に報酬を上げるだけでは得られない、自発的な貢献行動や組織へのコミットメントにつながるのです。

類似指標との違い

POSを理解する上で、よく混同される他の指標との違いを整理しておきます。

① POSとワーク・エンゲージメントの違い

POS(組織→従業員):組織が従業員に与える「資源」や「支援」。きっかけとなる要素

ワーク・エンゲージメント(従業員→仕事):仕事に対する活力や熱意。結果として現れる状態

つまり、POSを高めることは、ワーク・エンゲージメントを高めるための「土台作り」と言えるのではないかと思います。

② POSとストレスチェックの「上司・同僚の支援」との違い

職業性ストレス簡易調査票には「上司の支援」「同僚の支援」という項目がありますが、これらとPOSには以下の違いがあります。

ストレスチェックの支援: 上司や同僚という「個人」からの支援

POS: 「組織」そのものからの支援

従業員は、会社という組織をあたかも人間のように擬人化して捉え、「組織が自分をどう思っているか」を無意識に判断しています。POSはこの「組織レベル」での支援感を測定する点が特徴です。

③ POSとPSS(知覚された管理職支援)の関係

健康経営度調査のSQ1にはPSS(Perceived Supervisor Support:知覚された管理職支援)という選択肢もあります。

PSSは「上司からの支援」を測定する指標ですが、研究によれば「上司から支えられている」と感じると、「組織からも支えられている」という認知につながることが示されています。

従業員にとって「組織の顔」は直属の上司であることが多いため、上司の行動が組織全体への信頼感に影響を与えるのだと考えられます。

POSの測定方法について

SPOS(Survey of Perceived Organizational Support)とは

POSを測定するための代表的な尺度が、アイゼンバーガー教授らが開発した「SPOS(Survey of Perceived Organizational Support)」です。

オリジナル版は36項目からなる質問票でしたが、現在では実務での使いやすさを考慮した短縮版(8項目版、16項目版など)が開発されています。

日本では、産業医科大学の産業保健経営学研究室が8項目版の日本語訳を作成し、その妥当性と信頼性を検証しています。この8項目版は、健康経営度調査でも推奨されている測定尺度です。

SPOS 8項目の具体的内容

以下が、産業医科大学が妥当性・信頼性を検証したSPOS日本語版8項目です。

各項目について、「全くそう思わない(0点)」から「非常にそう思う(6点)」までの7段階で回答してもらいます。

  1. 組織は私の組織への貢献を評価している
  2. 私が所属する組織は、私の意見を大切にしてくれる
  3. 私の組織は、私のウェルビーイング(仕事を通じて快適、健康、幸せであると感じている状態)を、本当に大切にしてくれる
  4. 私が所属する組織は、私が全般的に仕事に満足しているか、気にかけてくれる
  5. たとえ私が最高の仕事をしたとしても、私が所属する組織はそのことに気づかない (R)
  6. 私が所属する組織は、私の利益に対してほとんど関心を示してくれない (R)
  7. 私が所属する組織は、私に影響を及ぼす決定を下す際に、私の一番の関心事を考慮してくれない (R)
  8. 私が所属する組織は、私が求められている以上に努力しても評価してくれない (R)

*(R)は逆転項目です。集計時は点数を逆にして計算します(0点→6点、1点→5点...6点→0点)。

合計点または平均点が高いほど、従業員は「組織から支援されている」と強く感じていることを意味します。

実施方法と集計について

実施タイミング

POSの測定は、以下のような方法での実施が考えられます。

ストレスチェックに追加:既存のストレスチェック実施時に8項目を追加することで、新たな調査負担を最小限に抑えられます。ストレスチェックを80問で行ったとしても、生産性調査を加えても100問未満で収まるので、回答者負担は大きくないと考えられます。

独立した調査として実施:組織風土調査や従業員満足度調査の一部として実施

定期的な従業員アンケートに組み込む:四半期ごとや半期ごとのエンゲージメント調査などに含める

匿名性の担保

POSは組織への率直な評価を求めるため、匿名性の担保が極めて重要で、特に以下の点には注意が必要です。

  • 個人が特定されない形での集計(最低10名以上の集団単位など)
  • 回答者に匿名性が保証されることを明確に伝達
  • 調査結果の目的と活用方法を事前に説明
集計方法

基本的な集計手順は以下の通りです。

  • 逆転項目(No.5-8)の得点を反転
  • 8項目の合計点を算出(最低0点~最高48点)
  • または平均点を算出(最低0点~最高6点)
  • 部署別、職種別、年代別などで集計
経年変化の追跡

POSは一度測定して終わりではなく、以下の点に注意して継続的な測定と改善のサイクルが重要であると考えられます。

  • 年1回の定期測定(ストレスチェックと同時など)
  • 改善施策実施前後での比較
  • 組織単位での変化の追跡

まとめ

本記事では、健康経営度調査で新たに測定尺度として採用されたPOS(知覚された組織的支援)について、以下のポイントを解説しました。

  • POSは令和7年度健康経営度調査で「企業の健康風土」を測る指標として採用された
  • POSとは「従業員が感じる組織からの支援度合い」を測定する概念で、社会的交換理論と返報性の規範に基づく
  • 産業医科大学が検証した8項目版を使えば実務での測定が可能
  • ストレスチェックに追加するなど、効率的な実施方法がある

POSの測定は、健康経営を「施策の実施」だけでなく「組織風土の変革」へと深化させる第一歩となりうると考えられますね

【記事全体の主な引用元一覧】
  1. 令和7年度健康経営度調査票 Q72、Q72SQ1
  2. 健康経営ガイドブック(2025年3月改訂版)p.45
  3. 森晃爾、永田智久、小田上公法 編著「健康経営を科学する!実践を成果につなげるためのエビデンス」(大修館書店、2023年10月)
  4. Eisenberger, R., Huntington, R., Hutchison, S., & Sowa, D. (1986). Perceived organizational support. Journal of Applied Psychology, 71(3), 500-507.
  5. Blau, P. M. (1964). Exchange and Power in Social Life. New York: Wiley.
  6. Gouldner, A. W. (1960). The norm of reciprocity: A preliminary statement. American Sociological Review, 25, 161-178.
  7. Rhoades, L., & Eisenberger, R. (2002). Perceived organizational support: A review of the literature. Journal of Applied Psychology, 87(4), 698-714.
  8. Kurtessis, J. N., et al. (2017). Perceived Organizational Support: A Meta-Analytic Evaluation of Organizational Support Theory. Journal of Management, 43(6), 1854-1884.
  9. 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室「研究成果物」(https://www.ohpm.jp/artifacts/)
  10. Eisenberger, R., Stinglhamber, F., Vandenberghe, C., Sucharski, I., & Rhoades, L. (2002). Perceived supervisor support: Contributions to perceived organizational support and employee retention. Journal of Applied Psychology, 87, 565-573.
執筆・監修
WellaboSWP編集チーム

「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画している者も所属している。

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